３周年企画６

□聞こえない声に
一氏 甘め

□聞こえない声に



「ふふふ震えとるやないかお前！」
「ひひひ一氏よりましやわ！」


ただ今、絶賛肝試し中。

ペアは変態テニス部の一氏ユウジ。
モーホーダブルスの片割れや。


「ああアンタ、意外とビビりやん！」
「お前こそ、ビビりすぎや！」


学年総出の肝試しって、やっぱりウチの中学ふざけとる。
ふざけとる割に、本気で怖い。
正直ナメとった。

せやから一氏もウチも心底参ってしもて、ガッチガチのままや。



「恨めしいやぁん」

語尾にハート付けて、担任が現れる。
ああ、何やギャグゾーンかと思った瞬間飛び出す吸血鬼に、

「ひぎゃぁぁぁぁぁ！」

と、条件反射で力の限り叫んだ。(つうか何で吸血鬼やねん！




「アホ、もう居らんわ。」
「え、」
「ほら、行くで。」


すると、さっきまでビビってた姿はどこへやら、先生らが消えたと同時にズンズン歩き出す一氏。
隣歩いとったのに、今は一歩先に居る。
そう言えば、さっきも前でかばって…


「ユウくん、ええ子やろ。」

何故かモーホーのもう片方の声がした気がして振り返ったけど、暗闇が広がるばかり。



「お前の声にビビっとったで。」


確かに、こちらに笑いかけてくる一氏は、かっこいいかもしれない。
聞こえてはならなかった声やったけど、心に坊主頭を思い浮かべて「せやね」と小さく返した。